定年退職して実感した人と繋がる意味

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定年退職後に人とのご縁が人生の原動力だと実感する

定年退職して感じることも人によって違うかも知れないが、生活が大きく変わることによって多くのことを実感することになった。

存在価値を失ったと実感したとき

定年退職で最も実感できるのは人との繋がりを失くしたことだ。
仕事でご縁のあった人たちと関わることがなくなり、独りぼっちになったと孤独感を感じることになる。
分かり切ったこととはいえ実際に人と会って話すことがなくなれば、空虚感に苛まれ心の拠り所をなくした感覚に陥ったのだ。

このような感覚を実感するのは定年退職後すぐではない。
どちらかと言えば最初は人と会わないことで煩わしさから解放された喜びの方が大きいが、それが1年を過ぎる頃からネガティブな空虚感へと逆転することになった。

もちろん定年退職しても再就職したり、地域の行事などに積極的に参加している人にそのような実感が訪れない人もいるだろう。

特にこのような感覚に陥りやすいのは私のような在職中に人との関わりが多い人だろう。
もともと営業職などで人と関わることが多かった時は自己の存在感を意識することもなく過ごしていたが、定年退職後の極端とも言える変化で気付いたに過ぎない。

在職中には頻繁に電話が掛かってきていたが、定年退職を境に電話が鳴ることはほとんどなくなったことから、初めて会社での自分の存在感を知ることになったと言ってもいいだろう。
そのギャップが大きければ大きいほど心の穴も大きくなるようだ。

定年退職すると最も必要ないのが自己顕示欲だ。
もっとも自分を見せる人も場所もないのだから持つ意味もないが、それに伴って失ってしまうのが承認欲求だった。

人が社会生活を送る上で誰もが持っている自己承認欲求までも失くしてしまえば、自らの存在価値までも見失うことになりかねない。

在職中の仕事内容にもよるだろうが、定年退職すると人と話しをしなければならない理由すら見当たらなくなる。
それも在職中は意識しなくても多くの人と会話しているのが当たり前のことで、それだけ多くの人とコミュニケーションをとっていたことになる。

そんな状況が定年退職を境に一変し、人とのコミュニケーションを意識しないと会話する機会すら訪れないのだ。
ややもすれば誰とも会話しない日が頻繁になるほどだ。
このような状況が続くことから社会生活から切り離されたと実感できるようにならざるを得ない。

定年退職の環境変化に対応するふたつの選択

このような環境変化に対応していくには、先ずそうなることを意識して受け入れなくてはならない。
受け入れた上で定年退職後の生きる方法を探すことになる。

その方法が人によっては再就職の道であったり、専念できることを探すことに繋がっていくのだろう。

再就職や地域貢献、ボランティアなどは、定年退職で失った社会生活を再び取り戻そうとすることに他ならないが、それが心の穴を埋めるひとつの方法なのだ。
そしてもう一つの方法が社会生活を取り戻そうとするのではなく、ひとりの世界をポジティブに捉え自分だけの人生に向き合うものだ。

再就職せずに何かに没頭して生きていける人は羨ましいがそう多くはないだろう。
どちらがいい悪いの話しではなく、定年退職後の人生を健康な心身で送ろうとするなら他に道はないのではと思うだけだ。

そのふたつの道を選ぶ基準は能力や性格によると思われがちだ。
例えば在職中に人間関係を器用に作ってきた人は再就職しても社会生活に戻りやすく、不器用な人は人に気を使わなくてもいい人生を選択している印象が強い。
しかしこのような選択肢も漠然としたイメージでしかない。

どちらかと言えば能力や性格でなどではなく、時間的要素が定年退職後の人生に深く関わっているのかも知れない。
定年退職から時間が経つにつれ、再就職など再び社会の歯車に戻ることは困難になると思えてならないからだ。
とはいえ定年退職で一般社会の全てから隔離されたほどのことではないのだから、社会復帰と言うほどのものでもない。

健康な肉体と精神さえ失わなければ、どの道を選ぼうと社会との繋がりを取り戻すことは可能だろう。
ただ何もせずに時間が経過するほど、その道は遠くなると思えてならない。

人とのご縁で生きていたことを実感

在職中は一日どれだけの人と会っていたのか今になって考えることがある。
もちろん会社勤めをしていた時はそんなことを気にしたこともないが、退職を目の前にしたとき初めて人との繋がりを意識し、お世話になった方々へ「ご縁に感謝」と題した御礼状を書いた。

今ではそれも過去の出来事になってしまったが、失くして初めて気が付くことのひとつだ。
人との繋がりの中で生きていた時には、多くのご縁も日常茶飯で特別なことではなく、人生の原動力になっていた意識などさほど持ってはいなかった。

しかし定年退職して時間の経過と共に、人生に於いて人との繋がりや出会いが特別な意味を持っていると改めて実感することになる。
そして人とのご縁が人生に与える影響を実感できた時、今度は自ら人との繋がりを強く意識するようになる。

定年退職後の人生に再び刺激を与えてくれるのも、人との繋がりであることだけは間違いなさそうだ。