韓国キムチョン旅行で体験したホスピタリティー

実際に乗ったセマウル特急

韓国キムチョン(金泉)へ友人を訪ねて・・

家族旅行で韓国キムチョンの直指寺へ

思いやりとか心を込めたおもてなしの事をホスピタリティーと言うが、最近日本のおもてなし文化と共によく聞くようになった言葉だ。
おもてなし文化が日本特有なものなのかは知らないが、平成13年頃に旅行で行った韓国でのおもてなしの体験談を紹介する。

JRで行った韓国

第一次韓流ブームより前で当時日韓は靖国参拝と教科書問題で揺れていた。
それより前から韓国文化に興味を持ち度々訪れていたのでこの旅行に不安は感じていなかったが、家族を連れて韓国旅行と聞いた近所の友人には「何もこんな反日感情が強まっている時に行かなくても」と注意を受ける羽目になった。
それでもこの旅行を実行しようと当時発売されていた日韓共同キップを近所のJR西日本に勤務していた友人に家族五人分の購入依頼をお願いした。

このキップの購入動機は私の子ども三人の内二人が小学生以下であったためJRなら半額になるのと、神戸からプサンまでの料金でソウルまで行ける程のお得感があったからだ。
姫路で新幹線に乗車して博多駅下車、タクシーで博多港へ行きJR九州運行のジェットフェリー(ビートル)で釜山港、徒歩でプサン駅へ行きセマウル特急でキムチョン駅着の予定だった。
博多港で空港と同じような渡航手続きを終えビートルに乗って釜山港までは3時間程度で到着した。
キムチョン駅では「家族で遊びにおいでよ」と誘ってくれた韓国人の友人が待っていてくれる。

始めてのセマウル特急で不安が!

何の心配もせずに出かけた旅行であったがプサン駅でセマウル特急に乗った直後から不安になる出来事がおきたのだ。
韓国人の友人からは「セマウル特急は日本語でも案内するから何の心配もいらないよ大丈夫、大丈夫」と言われていたのに靖国参拝と教科書問題の影響なのか日本語のアナウンスが全く聞こえてこないではないか。

いつまで待っても聞こえてきたのは韓国語と英語、中国語の三か国語だけだった。
日本語の案内があるのを疑ってはいなかったので韓国鉄道の時刻表など何も準備していなかった。
仕方ないので乗車券確認のため廻って来た車掌に「キムチョン駅には何時に到着しますか?」と日本語混じりのつたない韓国語で聞いてみたが、予測していた返事が返ってこない。
正確な到着時間が分からないと、小さな子どもを連れているのに下車準備ができないではないか。

しかもこの車掌は全く日本語など分からない様子で、何度も韓国語で同じことを繰り返しているようなのだ。
「もう少しゆっくり話して下さい」とわずかに知っている韓国語で訴えると、「だめです」とか「トンデグがどうの」だとか聞こえてくるのでやっとこの特急がキムチョン駅には停車しないことが推測できた。
一生懸命説明して下さった車掌が何やら言い残して立ち去ってしまったから結局下車準備をする時間は分からないままであった。

どうしたらいいのか思案していると少したって先ほどの車掌が若い女性を連れて帰ってきてくれたのだ。
その女性が言われるには、車掌が「乗車のお客様に日本語の分かる方はおられないですか」と乗車券確認をしながら聞いて廻っていたとのことだった。
日本に一年住んでいたと言われるその若い女性の通訳で、この特急はキムチョン駅には停車しないからトンデグ駅で急行に乗り換えることや、その時間などをメモに書いて頂き詳しく知ることができた。

通訳の後、空いていた私たちの後ろの席に着座されたその若い女性は、荷物を開け何やら探しものかと思っていると私の娘に大きなミカンと日本の五百円硬貨を手渡して「おやつでも買ってね」と言って頂いた。
恐縮している私に「もう使わないお金なので気にしないで下さいね」と言って何事もなかったかのように再び後ろの席に着かれたのだ。
このセマウル特急の車掌のおもてなし行動はこれで終わりではなかった。

やっと着いたキムチョン(金泉)駅

ムグファン急行まで引き継がれたおもてなし行動

車掌が再び乗り換えのトンデグ駅に到着する五分前に現れ「五分後に到着するので降りる準備をして下さい」と私たちに知らせに来てくれたのだ。
トンデグ駅で降りた私たちを待っていたのは先ほどの車掌から連絡を受けたのであろう駅長らしき人だった。
私たち家族五人を降りたホームの隣ホームへ案内してくれたその駅長らしき人は、少し時間をおいて入ってきたムグファン急行に一緒に乗り込み、空いた席を迎え合わせに回転させたかと思うと、「ここにお座り下さい」と手招きし、隣の席に座っていた年配の女性に何やらお願いして出ていったのだ。
どうも私たち家族を「キムチョン駅で降ろしてほしい」と頼んだようだ。

トンデグの駅長らしき人は今度はそのムグファン急行の車掌にも連絡してくれていたようで、発車後私たちの席に来たムグファン急行の車掌は「キムチョン駅に待っている人はいますか」「電話番号は」と理解できるようにゆっくりとした英語混じりの韓国語で聞いてきたので、友人が待っていることや電話番号を伝えると自分の携帯電話を取り出し、その韓国人の友人に今私たちが向かっていることや急行が遅れているので待っていてくれと伝えたのだ。
その時は何を話しているのか理解できなかったが、後でその友人から聞いて日本だったらここまでしてくれるだろうかと感動した。

ヒョンと慕ってくれた韓国の友人に感謝!

キムチョン駅で迎えてくれたホテルマンの友人は車で私たち家族を焼肉屋に連れていき、「自分は今仕事中なので後で迎えに来るから」と言い残し立ち去っていった。
その焼肉屋のテレビでは靖国参拝問題を取り上げていたが、韓国人しかいない他の客も日本人であろう私たちを白い目で見ることもなく居心地を悪くすることもなかった。
食べ終わったので友人が迎えに来る前に清算をしようと思い「計算してください」と店主に言うと手を横に振り「ケンチャナヨ・・・・」などと請求の行動をしないので不思議に思っていると迎えに来た友人が「もう払ってあるのでいいですよ」と言うがそんなはずはないと思いながらもその場は甘えてしまった。
車でその友人の勤めるホテルへ案内してもらいオンドル部屋に通されたが、次の日にホテルのフロントで清算をしようとしたとき、その金額にも腑に落ちなかった。
どう計算しても半額ほどの金額でしかなかったからだ。

その日夜勤明けの友人は1600年の歴史を持つ直指寺やキムチョン市、クミ市をマイカーで案内してくれ大変お世話になった。
韓国文化に割り勘がないことは知っていたが私に「ヒョン」と言って慕ってくれながらも気を使わせないようにするその友人には20年近く過ぎた今も感謝を忘れてはいない。
その旅行では買った商品を乱雑に扱われたりぞんざいに対応された食堂などもあったが、そんなマイナスイメージを差し引いてもその韓国の友人や韓国鉄道のホスピタリティー精神には感動してやまない。

その後も70代の人たちを連れてソウルに行き地下鉄に乗った時も、席を変わってくれる若い男性や「荷物を私の膝の上に置いて下さい」と言った若い女性に出会ったことがある。
こういった韓国文化が今も残る儒教の教えなのかは分からないが、行ってみないと体験できないのは言うまでもない。

テレビやNETなどでは慰安婦問題などの反日感情や日本の嫌韓感情がよくとりだたされるが、実際行ってお互いの文化に触れてみればそのイメージは随分と変わって見える。
他国を訪れてもツアーガイドにお任せした観光や、高級なホテルで食事をするなどの旅ではその国の本来の文化に触れることはできないだろう。
少し勇気をもって飛び出せばその国の文化が見えてくるだろうし、そういった本来の文化に触れてこそ旅行の楽しみが倍増すると言っていい。