日本で暮らす外国人には肩身の狭い思いをしてほしくない・・

20年近く前の夏、韓国の友人を尋ねて家族でキムチョン(金泉)市へ行き、キムチョン駅まで迎えに来てくれた友人が連れて行ってくれた焼肉店での話しだ。
仕事中であった韓国人の友人は私たち家族をその焼肉店に降ろした後、「後で迎えに来るからゆっくり食べて・・」と言って去っていった。

当時の反日背景

当時、潜在的親日派とされていた金大中(日本名は豊田大中)氏が大統領であった頃だ。
金大中氏は立命館大学の博士号を持ち、日本に命まで救われている大統領だ。
そんな人が大統領を務める韓国ではあったが、それでも小泉純一郎氏の靖国神社参拝や日本の歴史教科書を問題に反日を掲げているところが潜在的なる所以だろう。
日本でも韓国の反日報道に敏感で連日のように騒ぎ立てていた頃だった。

そういえば今の文在寅(ムンジェイン)大統領もこの金大中氏の意思を受け継いでいるはずだが、まったく違うように見えるのはどうしてなのか。
今回その話しは控えておくが、とにかく靖国問題が絶頂期で両国のメディアは相手国の批判を繰り返していた。

反日国韓国の焼肉屋で過ごした時間

キムチョン(金泉)市とはソウルと釜山の中間内陸部に位置している人口13万程度の地方都市だ。
大邱市(テグシ)より少しばかりソウル寄りにあり、直指寺(チクチサ)というお寺の他にはこれといった観光地もなく当時日本人が訪れるような場所でもなかった。

つまりソウルや釜山のように至る所で日本人に会うような地域でもなく、ましてや日本人どころか外国人相手に商売している店などあるはずもない。
そんな地元民しか行かないような焼肉屋さんへ私たち家族は置いてきぼりにされたのだ。

焼き肉屋の店内は中央の土間に4人掛けのテーブルが4卓ほどと、左手窓際に靴を脱いで上がる座卓が4卓ほどある日本にもよくあるタイプの普通の飲食店だ。
日が落ちて薄暗くなりかけていた時間だったので8時頃だったのだろう。
韓国は時差がない分、日本よりは日没が遅い。

お客さんも年配の人を中心に7割方は埋まっていたように記憶している。
私は入口に一番近い座卓に家族を座らせた。

当時長男は中学生で次男が小学4年生、末っ子の娘は小学校に入ったばかりで私たち夫婦が40歳前後の5人家族だった。

店内の厨房入口が私たちが座った対面にあり、その入口の上辺りの常設してあるテレビに大きめの音量で番組が流されていた。
大方の客は仲間内で肉を焼き焼酎を飲みながら世間話に花を咲かせていたが、何人かは肉を食べては頭を上げてテレビに見入っていた。

座卓を囲んで座っていると店主の奥さんであろう女性が肉や野菜、キムチなどを持ってきて自分たちで焼いて食べてくれと手振りを交えて言って厨房へ戻っていった。
おそらく迎えに来てくれた友人が前もって「日本人の家族が来るからよろしく・・」と頼んでくれていたのだろうと推測できた。
注文もしていない焼肉を持ってきて、どう見ても上手とは思えない慣れない手振りを交えて説明してくれたのはそのおかげだ。

焼きかけた肉が煙を上げ徐々に色が変わって食べられそうになった時、「これもう食べてもええ?」と腹を減らしていた次男が大きな声を出した。
近くに座っていた数人の客の視線がほんの少し、チラッとこちらに向いたような気がした。

旅行鞄を持った日本人の家族がここへいること自体が場違いだと感じているのは私たちの方だ。いや私だけかも知れない。
妻や長男はさておき次男や小さな娘はここが外国だということさえ意識することもなく、とにかく目の前にある美味しそうな焼肉で頭がいっぱいなのだ。

私は何も返事をせず黙って次男のお皿に焼けた肉を置いた。
別に他の客に気を使う必要はまったくないのは分かっているが、私がこの状況で日本人を意識するのには理由があった。

この旅行を決めて近くに住む友人に話した時、「何もこんな反日感情が高まった時に家族で行かなくても」と注意をされていたからだ。

そんなことを考えていた時だ。
「やすくに・・・」とハッキリした日本語が聞き取れた。
いつの間にかテレビの番組がニュース番組に切り替わり、取って置きのネタと言わんばかりに靖国問題を取り上げていたのだ。
テレビ画面も靖国神社や日本の政治家の顔を映し出していた。

私の心配をよそに次男と娘は「おとうさん、これなに~」とか「これどうやって食べるん?」と大きな声で日本語を連発している。

肩身の狭い思いをしなかったのは思い過ごしか・・

私たち家族五人が日本人であることは気付かれていないはずもなく、この同じ空間にいる人たちが何を思っているのかと気が気ではなかった。

もしこの時その店にいた人たちから、白眼視されたり指をさされるなどしていたらどれだけ肩身の狭い思いをしていただろうと20年過ぎた今でも記憶に残っている。
しかしその心配は思い過ごしで終わった。
それどころか敢えて誰もがこちらを見ないようにしているとさえ感じるほどだったのも思い過ごしだったのだろうか。
「誰もあなたたち、日本人のことは気にしていないよ」とでも言わんばかりにだ。

ここがソウル明洞の焼き肉店であればそんなことを考えることもしないが、韓国人でも「それどこ?」って言うほどの田舎街のはずれにある焼肉屋だからこそ気になったのだ。
外国人というだけでも珍しいだろうと思うのは、自分が住んでいる田舎でも外国人など見ることもないからだ。

その焼肉屋での不思議とさえ思えるほどの客の気遣いが、私の思い過ごしとは言えないと感じたのは次の日のことだった。

夜勤明けで休日だった韓国人の友人が直指寺(チクチサ)を案内してくれたときのことだ。
参道を歩く私たち家族を振り返ってまで見ようとする参拝客が少なからずいたのだ。
その様子は家族と一緒に参拝に来ていた子どもにも見て取れた。
その時は「なぜ私たち家族が日本人だと分かるんだろう」とさえ感じていた。

案内してくれた友人がそのことで逆に気を使ってくれているのも明らかだった。
その友人は韓国人には珍しく口数は少なくおとなしい性格だったが、私たちに肩身の狭い思いをさせまいと下手な冗談などを言って世間の目から遠ざけていたのだ。

ひょっとしたら昨日の焼肉屋では店主か女将が常連客に「今から日本人の家族が食べに来るけどジロジロ見んとってよ~」などと下相談されていたんではないかとさえ思えた。

どちらにしても私たち家族にとってはありがたいことだった。
もちろんこの韓国の友人にも感謝しているが、居場所を作ってくれた焼肉屋さんにも感謝したい。
それがもし私の思い過ごしであったとしてもだ。

あれから20年経った今、感じることは・・

まだYouTubeも開設されていない頃の話しをしたが、YouTubeなどのSNSがメディア化された現在、テレビのワイドショーやYouTubeなどで反日を取り上げた番組や動画を多く目にするようになった。

特別永住者の在日韓国人だけではなく日本で暮らしている韓国人の総数は250万人程度と言われているが、その多くの韓国人は日本語が話せ日本語を読める人たちだ。
そして日本で暮らす韓国人の共通点は日本が好きと言っていることだ。

韓国批判をする人たちに意見を申し上げるつもりも更々ないが、YouTubeやテレビのワイドショーで日韓にどんなに詳しい専門家が意見を申されようが、その言葉に影響を与えるとするなら両国の政治家や政治運動家ではなく番組の視聴者である一般の国民だろう。

出来ることなら日本で暮らす一般の外国人が、肩身の狭い思いをしないような番組づくりをして頂けないかと願うばかりだ。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加