面接の経験

面接で分かる会社の本性

サラリーマン人生とは言え、倒産やリストラ、廃業などで何度か中小企業を渡り歩く結果になったことから、その度に就活のための面接を受けてきた。
今の大手企業のような面接ではなく、ぶっつけ本番の一度の面接で採用の合否が判定されるものだ。
若い頃は面接を受ける時、謙虚な姿勢でハッキリとした言葉で受け答えし、背筋を伸ばして臨んでいたものだ。
とにかく採用して頂きたい気持ちだけが強く、自分の売り込みだと考えていた。

それが年齢を重ねるにつれ、社会での経験が重なり面接の考えも変わっていった。
年齢的に中堅と言われるくらいになると、マネージメント業務も経験したことで、面接をする側の立場で人材採用にも携わったことから、会社規模が小さくなるほど採用基準が曖昧になっていることに矛盾を感じていた。
会社側では欲しい人材の職種が決まっている程度で、面接での質問内容は決まっておらず、その職種に対する資質を見極める要素は履歴書に書かれている資格や経歴だけであったりする。
要は面接で見るのはその人の印象だけと感じていた。
営業職であれば、清潔感がある身なりであったり、人に不快感を与えない喋り方や、態度などだ。
会社から面接に立ち会う指示が出ても、採用基準や質問マニアルもないのが大概の中小企業の実態のようだ。

そのような形態で人材採用をしているので、入社後その業務の資質に欠けることが分かると戦力外と見なし退社を促すような扱いになってしまうことが多い。
中小企業の場合、そのような人材の教育に掛ける時間的余裕がない場合が多く、離職者が増えてブラック化が進んでいる。
人をザルですくって選別している状態と言っていい。
そんな会社ほど人材管理をする側のマネージメント能力は概ね管理職に託されているが、その管理能力の資質や評価は成されていないのが現実であったりする。

例えば営業職の面接をする場合、その人のコミュニケーション能力を見抜く質問であったり、その人の持つ営業職でのリソースの大きさなどを測る質問などを用意して向かわなければお互いに不幸を招くことにも成りかねない。

私も40代で倒産にあって就活をしていた時、色んな意味で記憶に残る面接を経験したことがある。
当時まだこれから子どもの学費が多く必要になる頃であったため、就職することが急務と感じていた時、従業員100人程度のメンテナンス会社に面接に行った。
朝9時にその会社の事務室の片隅にある低いパーテーションで区切られた面接エリアに通されたが、面接を受けて終わったのは12時近くになっていた。
面接時間が3時間に及んだのだ。

最初の1時間はありとあらゆることを聞かれたのを覚えている。
前にいた3人の面接官は会社の役員だと紹介を受けたが、その一人一人から親兄弟のことから育った環境や飲酒の量まで、今では聞いてはいけないことも含め「そんなこと必要?」と思えることまで、ここへ来るまでの想像をはるかに超えた質問攻めだった。
そして次の1時間は会社の説明を受けることになった。
会社の創業の経緯から始まって現在の社員が持っている資格の種類や数までに至った。
それらの多くの会社情報を開示して頂いたにも関わらず、自分が入社した場合の待遇に関しては給与から福利厚生まで求人情報以上の説明は受けることはできないでいた。

しかしそこは既に社会経験が豊富な者の知恵が働くのが普通だ。

通されたのが会社の事務所と言う事もあって、廻りを見渡せば説明にはないその会社の内情も見えてくるものだ。
机に置いてあるパソコンはどれも古く、事務所の壁もこの社屋が建てられてから張り替えられた形跡が伺えないほど傷んでいる。
先ほどの説明では、今も無借金経営であることや、社員の資格の多さからもそれらの技術力をサービスとして提供していて売り上げのほとんどが粗利であることなどが伺える。
従業員の数にしては売上金額が少ないのもそれで納得はできるが、儲かっているのになぜこれらの備品が古いのかが腑に落ちないところだった。

もう少し注意をしながら目を凝らし壁に貼ってあるホワイトボードなどから情報を得ようとしていた時、その上に掲げられていた額に入った社訓が目に入った。
その社訓にはどこの会社にも共通する社会的責任を意味するような内容が書いてあったが、最初の文章だけ忘れることができないほど違和感を感じる言葉だった。
「会社は道場だ・・」から始まっていたからだ。

質問があればとのことだったので、この社訓の意味を聞いてみると、「よく聞いてくれた」と会社が果たす社会的責任についての長い話しを聞かされたが、私が聞きたかったことには触れられなかった。

3時間の面接を受け、この会社を自分なりに分析すると、無借金の健全経営で倒産やリストラのリスクは非常に低く、資格取得などを含めスキルアップには最高の会社だろうと思われる一方、経費を必要以上に抑えていることや、ある程度の矛盾した会社の指示にも従わなくてはならない忍耐力が必要だと思えた。
社訓からも見えるように会社は道場なのだから低い賃金や長い労働時間などは辛抱し、睡眠も削って資格取得に励まなければならないと思えたのだ。

直ぐにでも就職したい気持ちはあったものの、丁重にお断りすることに悩みはしなかったことを思い出す。
その後、定年までお世話になった会社に就職したが、そこの仕事で多くの事業所や会社を訪れる度に額に入った社是や社訓に目をやるのが癖になったほどだ。