何を聞いても伝わらない100点満点の言葉に出会った話し!

買いに行ったはずのエアコンを買わずに帰った理由は・

昨日エアコンを買い替えるためにいつも行く家電量販店を訪れたが、そこでの思いもしなかった出来事を書くことにした。
人は言葉のやり取りで心を動かされたり感情を刺激されたりもするが、ほんの少し食い違いが生じるとまったく正反対の結果になってしまったという例だ。
この文章を通して特定の企業を批判したり個人を責めるつもりもないことだけは最初に言っておきたい。

エアコンを買い替えたい理由

今年が異常なのかそれとも温暖化に体が慣れてきていたのかは分からないがとにかく家の中が寒い。
その家の中でも朝夕過ごしているリビングは北側にあるから尚更だ。
我が家のリビングにはコタツやファンヒーター等はなく、エアコンだけに暖房を託しているのがこの寒さの原因でもある。
ファンヒーターを置かない理由は燃焼時に水蒸気を発生させるので結露に悩まされるからだ。
コタツは場所をとるだけではなく亭主が入ったまま動かなくなることで置いてはいない。
ここまで書けば大抵の方はお気付きだろうがファンヒーターやコタツを置くことは私ではなく妻が反対しているのだ。

我が家で唯一の暖房器具であるそのエアコンは購入から10年以上過ぎていて能力的にも十分とは言えない。
このエアコンの購入当時は6帖の居間だけの冷暖房を賄うためだった。
今では8帖のダイニングキッチンとの間仕切り建具を取り払ったために14帖をこの小さなエアコンに頼っているのだから無理もない。

大手家電量販店へエアコンを買いに行ったが・

家電を買う時にいつもお世話になっている大手家電量販店へ向かった。
もちろん能力の見合ったエアコンに買い替えるためだ。
年末商戦真っ只中で家電製品を買うには一年の内で最もメリットの大きい時期でもある。
妻はその店のチラシを持ち買う気満々だ。

その店までは車で10分程度なので会話もないまま到着し、店に入り真っすぐエアコンコーナーに進んだ。
よく来ている店なのでどこに何があるのかは把握していて迷うことはない。

数多くのエアコンが壁に掛けられ展示してあるが能力順になっているので目当ての能力の商品を探すのも容易だ。
しかし能力は同程度でもメーカーや金額は一律ではないので、商品の側に掛けられた販促POPに目をやっていた時だった。

「説明しましょうか?」
私たちの後ろから声が聞こえた。
間違いなくここの店員さんだが初めて見る顔だった。
妻が振り向きもしないから私が妻に向かって言った。
「説明しよかって・」
妻が「え?わたしに?」と答えた。
妻の目は「わたしではなくてあなたが聞くのが普通でしょ当然男の方がこういうものには詳しいんだから」と語っていた。

ここまでは私たち夫婦の間でのやり取りだったはずなのだが「ですから私が説明しますと言ってるんです」と他人であるはずの店員さんの声が聞こえた。

私たち夫婦は顔を見合わせ「ん・?」とその店員さんの言葉に何とも言えない違和感を感じていた。

私たち夫婦が抱いた同じ違和感とは「何だこの上から目線の言い方は・」「高飛車・」「高圧的」とも取れる言い回しに聞こえたことだ。

その違和感を拭い去ることができないまま説明が始まった。
説明は先ず質問から始まった。
「エアコンは新規ですか、それとも買い替えですか?」「部屋の広さはどのくらいですか?」「コンセントは100V、それとも200Vですか?」「配管は何メートルくらいありますか?」などだ。

ひとつずつの質問から始まる説明はてきぱきとしていて的を外すことはない。
的を外すどころか一部の隙もないと言う方が適した表現と言えるほどだ。

「今なら既設エアコンの取り外し工事費はサービスになりますが、家電リサイクル法に関連した料金がこれだけ掛かります」「購入されるエアコンによって出来るサービスも異なりますが、今ならどのエアコンでも現金で一万円の値引きをさせていただきます」
と言った具合だ。

これが接客のための研修で行われるロープレなら100点満点だろうということは、営業で生きて来た私には十分理解できる。
何故ならその説明にはそつがないからだ。
そつがない代わりに客である私たちからの付け入る隙もまったくないのだ。

出来る事ならほんの少しでもサービスを増やしてほしいと思うのが客の心理だ。
この店でも何度も家電を買っているが、これまでの店員さんなら私の交渉に「これ以上のサービスは難しいですが、これに限ってもう少し何とか出来ないか店長に掛け合ってみます」などと融通を効かせてくれた経験があるのだ。
「店長に掛け合ってみましたが私の力不足でこれ以上は無理でした」と返事されたとしても客としてはそれはそれで気が済み気持ちのいい買い物ができると言うものだ。

「この金額にできるのは明日までになっていますので購入されるのならお急ぎ下さい」と言われたがこの違和感を抱えたまま買うことはできない。
私たち夫婦は顔を見合わせた。
妻の目は「とにかく今日は帰ろう」と言っている。

「それじゃあ今日は帰って配管の長さなどを確認し相談してきます」と言って店を出た。
名刺を渡されながら「私は明日もいますので・・」というその店員さんの言葉を聞く時間も惜しむようにだ。
車に乗った途端妻が言い放った。
「何で買い物行ってあんな嫌な思いせなあかんのん」「何であんなに上目線なん」
どうも店の中では余程堪えていたようだ。

いつも直球で話す妻の言葉が今更と言わんばかりにあの違和感の輪郭を浮き出させたようでもあった。
妻に念を押されたように私の違和感が勘違いでないことも証明していた。

その店員さんを頭ごなしに責めるつもりは毛頭ないが、これでは他のお客様に与える印象も良くないことは明らかだ。
そうかと言って本人にもまさかお客様に悪い印象を持たれているなどと言う自覚はまったくないに違いない。
そんな心配をしなくてもいいのだろうがもはやこの地域にはなくてはならない大型店舗ということもあり気付いてほしいと願うばかりだ。

私たちが感じた違和感が地域差による方言の違い程度ならいいのだが、これまでにも大手通信キャリアの店舗などで経験した感情と類似していたことが気になりもする。
大手企業ほどお客様対応もマニュアル化され、そのマニュアルに忠実な人ほど目の動きや些細な表情の変化から相手の心の動きを読みとることを苦手にしているのではないか。

結局我が家ではこの寒い冬を厚着でやり過ごし、暖かい春の到来を心待ちすることになった。